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未来戦略シナリオ

 

【ビジネススキル】 未来戦略のススメ

(第4回)5フォース分析で事業を育てる
~5つの競争要因で視点を拡大~

顧客価値の視点が不可欠

未来戦略においては、戦略を自社の業界内だけではなく、より広い視点から検討する必要があります。事業競争は同じ業界内だけではなく、他の要因に影響されるからです。5フォース分析はそのための「競争要因検討ツール」のひとつです。経営学者のマイケル・E・ポーターによって提唱されました。 ここで「5フォース」とは、①買い手の力(顧客)、②業界内の同業間競争、③供給業者の力、④新規参入者に対する脅威、⑤代替製品や代替サービスと定義されています。

ドコモらくらくホン事業における5つの力

平素の事業活動は、顧客や同業に目を向けた活動になりがちです。しかし、現実には、業界の競争環境は、供給業者、新規参入、代替品等の影響を受けます。例えば、最近では液晶等のための希少貴金属の安定的調達は各社の戦略的課題です。また、出版業界ではインターネット販売が一般化するにつれて本屋さんに大きな変化がおきています。さらに、本そのものを電子図書として流通させる取組みも始まっています。

5フォース分析の使い方には2つあります。ひとつ目は「自社の戦略的リスクの発見や自社の競争優位性確保」という立場からの使い方です。これはポーターの競争戦略論で詳細に紹介されており、多くの企業では、このような使い方がされています。事業活動上の競争要因を5つの軸から分析します。それによって、業界に起こるであろう変化、収益性への影響、参入障壁構築や撤退戦略の検討を行なうものです。

2つ目の使い方は「顧客価値や業界全体の発展」という立場からの使い方です。未来戦略的には、こちらの使い方をおすすめします。技術革新が激しい業界においては「今日の敵は明日の仲間」「各社の得意技術の融合で新しい価値づくり」等が頻繁に発生するからです。この使い方の場合は、新規参入者の軸は「脅威」ではなく「機会」ととらえる使い方も必要です。

このような考え方から事業を成長させた例として、ドコモ製携帯電話の「らくらくホンシリーズ」をみてみましょう。らくらくホンは約10年前にシニア向け携帯電話として富士通が中心となって開発しました。携帯電話の高機能化に目がいきがちななかで、シニア層に的をしぼった製品です。

基本的なコンセプトは人間工学にもとづき設計されたユニバーサルデザイン(誰でも使いやすい設計)。これを実現するために、ボタンサイズを大きくする、相手の声がゆっくり聞こえる、メールを読み上げる等のハード・ソフトの工夫がされています。 さらに、部品業界と一帯になり、より明るい液晶、持つだけで電源ON等の機能が開発されました。結果として、シニア層だけではなく、視覚障害者にも使える携帯電話になってきています。

 また、シニア市場に関心をもつ健康関連機器企業との協業開発がされています。万歩計機能はもちろん、体重・体脂肪率等を赤外線で携帯に取り込み、日々の健康管理ができるようになっています。この機能は、ビジネスマンが自分の健康管理用に使う人も出てきています。

 5フォース分析は、自社の競争優位や収益確保のための検討ツールとして発展してきました。しかし、未来戦略的には事業を考えるために思考の幅を広げ、未来戦略のヒント発見に役立てたいものです。目の前の顧客や競合の分析だけではなく、広く業界全体の可能性検討をすることで、未来に向けた準備を行なうことができるでしょう。

〔FMIC: フューチャーマネジメント アンド イノベーションコンサルティング〕