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未来戦略シナリオ

 

【ビジネススキル】 未来戦略のススメ

(第10回)未来戦略の仮説検証
~現場次見(じけん)簿で兆し情報発見~

現場視点から実効性探る

未来戦略の検討にあたっては「戦略構想の練り上げ」が重要です。戦略構想の練上げのためには、仮説と検証を繰り返す必要があります。これにより、未来戦略のリスクを最小にしながら事業機会を最大化することができるからです。

しかしながら、未来の戦略をどんな方法で検証すればいいのでしょうか?各種の未来予測レポートと照らし合わせてみる。統計的に大量のデータを分析し、あるパターンを発見するデータマイニング手法を使う。ツイッターのような道具を用いて断片情報から新たな傾向を発見する。有力顧客との共同研究を行う等、さまざまな方法が提案されています。

ここでは、自ら、未来戦略の検証を主体的に行なうための「現実的」「効果的」な方法として「現場次見(じけん)簿」という手法について考えてみましょう。未来戦略というと、ともすると会議室の中でごく限られた少数のメンバーによって議論されがちです。しかし、これでは「仮説のうえに仮説を重ねる」ような議論におちいります。 

現場事件簿

現場次見簿は、読んで字のごとく「現場に行けば次の時代が見えますよ」ということから名付けられました。これは、テレビ映画の「踊る大捜査線」の中で青島刑事が言った「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!」という台詞がモチーフとなっています。ここで、現場とは「顧客の現場」「研究の現場」「生産の現場」等です。

一例として、ヤマト運輸で宅急便を開発した小倉氏のケースをみてみましょう。小倉氏は1973年頃、膨大な先行投資が必要な宅急便の事業採算性検討に悩んでいました。あるとき、出張で訪問したニューヨークの四つ角に、小荷物運搬車が4台止まっているのを見ます。そのときに「車両単位の損益分岐点さえ確保できれば宅急便事業は可能だ」と閃いたそうです。

現場次見簿は現場で起きている兆し情報の発見ツールです。兆しの考察視点としては基本的に3つあります。ひとつめは、予期していないニーズの発見です。頭では「こうだろう」と考えていたことが、現場ではまったく違うことを期待していた等の発見です。

2つめは調和しないことの発見です。一般に商品やサービスは何かの関係のなかで機能しています。自社の知識だけで「これで大丈夫」と考えても、現場にいけば、他の商品やサービスと調和しない点が多数、発見できるでしょう。

3つめは新しい可能性の発見です。一般に自社内で考えると、リスク低減の意識が働き、難しいことは避けたがる傾向があります。しかし、変化する市場や研究現場の刺激により「こうすればできるかも」ということがあります。

ある中堅プラスチック成型機メーカーでは、次世代事業として、超小型機の開発戦略の現場次見簿活動を行ないました。複数の有力顧客を訪問する過程で、この製品は量産工場ではなく、研究所の試作品づくりにこそ、価値があることが明確になりました。予期していなかったニーズの発見です。 試作品づくりに活かすためには、成型過程のデータ収集のために他の計測器との調和や連携機能を付加する必要がわかりました。さらに、顧客からは多種多様な素材での成型を依頼されました。当初は、機械が複雑になるので、実現性は薄いと考えれていました。しかし、試作機なので、機械の耐久性を落としてもよいことがわかり、事業化の可能性が確認できました。

このように、次世代戦略の構想ができると同時に現場次見簿活動を行うことが有効です。。顧客の現場、先端研究の現場を訪ねることで、予想外の発見があります。これらを体系的に考察することで、戦略の練り上げを行なうことができます。結果として、事業戦略の完成度向上、開発メンバーの活性化、顧客満足向上等の成果があがります。

未来戦略に限らず、一般の商品企画や事業企画においても、現場次見簿は重要です。机上論だけではなく、現場次見簿で「兆し情報」を発見することで、戦略の仮説検証をまわすことができます。

〔FMIC: フューチャーマネジメント アンド イノベーションコンサルティング〕